今回の記事は、保育士試験の出題をもとに、児童虐待の疑いがあった時の職員の行動について確認したいと思います。
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こんにちは、がってん学童所長です。
今回は、2019年度の保育士試験の、児童虐待に関する出題内容を、ストーリーとしてまとめました。
後に続く5つの対応の中に、不適切な対応が一つだけあります。
記事を読み、正解を考える中で、職場で児童虐待の疑いがあった時の正しい対応について学ぶことができます。
けっこう悩んでしまう、良問ですよ。職場の仲間と一緒にチャレンジしてみてください!
目次
【状況】施設を利用する児童が虐待を受けている疑いが・・・
僕が担当するクラスの1年生、えいじ君のことで、最近気になる様子があります。
えいじ君は、他の子に対して、威圧的な態度をとり、手が出るなどの行動が続いているんです。
実は、1週間前、たまたま発見したのですが、じろう君の脇腹に、「あざ」らしきものがありました。
僕は、えいじ君に確認しました。
このあざ、どうしたの?
かあちゃんにたたかれたんだ!!
え?
そして、昨日、あざの数が増えていることに気が付いたんです。今度は右足の太ももあたりでした。
お迎えに来た時のお母さんの様子を観察すると、表情が硬いように感じられました。親子の会話もなく、黙ってえいじ君のことを、連れて帰ったという感じでした。
僕は、これらの様子を所長に報告しました。それで、今日の職員会議で、えいじ君の対応について話し合うことになったんです。
その結果、
現時点では虐待と断定することはできないよね。
関係機関に連絡したら虐待として対応される可能性もあるかもしれないけど・・・。
今のところ職員とお母さんの関係も良好だし、施設としてお母さんを支えていきましょう。
という話になったんです。
だけど僕は、えいじ君への身体的虐待の可能性を感じていて、具体的な対応が必要なんじゃないかと悩んでいます。
僕はどうしたらいいんだろうか?
このあと、たけし先生がとった行動の中で、児童虐待の対応としては不適切なものが一つだけあります。それはどれだと思いますか?
【対応1】
念のため、あざの様子を写真にとっておきませんか?
そうね。
僕は、職員会議で協議したうえで、えいじ君のあざの写真を撮り、施設内のセキュリティーを保てる場所で保管しました。
【対応2】
はい、児童相談所です。
あ、もしもし、名前は言えないんすけど、児童虐待かもと思って電話しました。
僕は、えいじ君の最近の様子や親子関係について、匿名で児童相談所に通告しました。もちろん、所長や先輩職員には内緒です。
【対応3】
児童虐待だと判断できるまで、えいじ君の様子をもっとしっかり見守っていこう。
そうっすね。職員みんなで見守りを強めましょう。
僕は、児童虐待が起こっているという確かな判断ができるまでは、施設内の対応にとどめることにして、いつもより丁寧にえいじ君やお母さんの様子を見守ることにしました。
【対応4】
所長と先輩の判断は間違っていると思う。
僕は、職員会議の結論に納得がいかなかった。このまま、職場の方針で対応するのはよくないと思って、個人として、自治体の窓口に相談することにしました。
【対応5】
これからも、みんなで相談する場をもってほしいっす。
うん。えいじ君の対応について今後も協議していこう。
わかりました。
僕は、引き続き、えいじ君の対応を協議できる場が必要だと思って、所長や先輩に働きかけました。
以上、1から5の対応の中で、児童虐待の対応としては不適切なものが一つあります。
皆さんはわかりましたか?
この後、解説と正解です。
もう一度、1から5の対応を見直して、考えてみてくださいね。
正解と解説
「児童虐待の防止等に関する法律」第6条では、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。」とされています。
身体的虐待が起きていると判断できるまで待つのではなく、疑いが見られた時点で速やかに関係機関に通告することが早期発見・防止のために必要です。
以下の状況から、えいじ君に対する身体的虐待の可能性が考えられます。
- えいじ君の他の子に対する威圧的な態度
- 手が出るなどの行動
- えいじ君の脇腹にあざがあった
- 1週間であざの数が増えている
- えいじ君が「お母さんにたたかれた」と言っている
- お母さんの表情が硬いように感じられ、えいじ君を会話もなく連れ帰った
解説【対応1】
念のため、あざの様子を写真にとっておきませんか?
そうね。
僕は、職員会議で協議したうえで、えいじ君のあざの写真を撮り、施設内のセキュリティーを保てる場所で保管しました。
〇=正しい対応です。
「子ども虐待の手引き」には、受傷の程度によっては写真を撮ることや、守秘義務について書かれています。証拠を残すことは正しい対応と言えます。ただし、情報漏洩にには気をつけましょう。
解説【対応2】
はい、児童相談所です。
あ、もしもし、名前は言えないんすけど、児童虐待かもと思って電話しました。
僕は、えいじ君の最近の様子や親子関係について、匿名で児童相談所に通告しました。もちろん、所長や先輩職員には内緒です。
〇=正しい対応です。
実名で通告することが難しい場合は、匿名で通告することも可能です。
「児童虐待防止法」第五条では、守秘義務のあるものが虐待について通報しても罰せられることはないとされています。
また、同法第七条に、通報者の匿名性について書かれています。
解説【対応3】
児童虐待だと判断できるまで、えいじ君の様子をもっとしっかり見守っていこう。
そうっすね。職員みんなで見守りを強めましょう。
僕は、児童虐待が起こっているという確かな判断ができるまでは、施設内の対応にとどめることにして、いつもより丁寧にえいじ君やお母さんの様子を見守ることにしました。
✖=不適切な対応です。
施設内の対応にとどめるなど、保留にしている間に、さらに重大な事件が起こる可能性があります。児童虐待の可能性を感じた時点で、通告することが児童虐待の早期発見・児童の保護につながります。
「児童虐待防止法」第六条では、「児童福祉施設の職員などの児童の福祉に業務上関係のある者は、児童虐待の早期発見に努めなければならない」と書かれています。
速やかに通告することが肝要です。
疑いがあるのに、「施設内の対応にとどめることにしてしまった」という点がポイントとなります。
解説【対応4】
所長と先輩の判断は間違っていると思う。
僕は、職員会議の結論に納得がいかなかった。このまま、職場の方針で対応するのはよくないと思って、個人として、自治体の窓口に相談することにしました。
〇=正しい対応です。
【対応2】・【対応3】と同じく、児童福祉施設の職員は、児童虐待の早期発見に努め、虐待を受けたと思われる児童を発見した場合は、速やかに通告しなければなりません。
個人の判断であっても通告する必要がある場合も考えられます。
解説【対応5】
これからも、みんなで相談する場をもってほしいっす。
うん。えいじ君の対応について今後も協議していこう。
わかりました。
僕は、引き続き、えいじ君の対応を協議できる場が必要だと思って、所長や先輩に働きかけました。
〇=正しい対応です。
虐待の防止や、虐待が疑われる事例に出会った時には、日々の対応・観察が必要です。また、状況に随時対応できるような協議体制が必要となります。
「子ども虐待の手引き」には、子ども虐待対応の原則の一つに、組織的な対応が書かれています。
組織的な対応は、判断の偏りを正し、正確な記録を残すことができる、担当者ひとりに負担を負わせないなど、様々なメリットがあります。
施設職員の連携だけでなく、地域や市町村などとの連携も大切にしましょう。
いかがでしたか?
ちなみに、保育士試験の実際の出題は以下の通りです。
(2019年後期 保育士試験「児童家庭福祉」より)
次の【事例】を読んで、【設問】に答えなさい。
【事例】
M保育所の5歳児クラスを担当するN保育士は、L君のことが気になっていた。L君は他児に対して威圧的な態度を取り、手が出るなどの行動があった。1週間前、L君の脇腹にあざらしきものがあった。L君に確認したところ、「お母さんにたたかれた」と答えた。今日、改めて着替えの際に確認したところあざの数が増えていた。また、母親の様子を改めて確認してみると、N保育士には表情が硬いように感じられ、またL君を会話もなく連れて帰った。
園長と話をし、M保育所内で話し合いを行った。その結果、現時点ではL君が虐待を受けているとは断定できず、また関係機関に連絡すると虐待として対応される可能性もあるが、M保育所と母親との良好な関係ができているM保育所で支えていく方針となった。しかし、N保育士はL君への身体的虐待等が起きている可能性を感じ、具体的な対応が必要ではないかと感じた。
【設問】
次の文のうち、N保育士の対応として不適切な記述を一つ選びなさい。
1 .虐待の可能性が疑われるため、職員会議にて協議の上であざの写真を撮り、保育所内のセキュリティを保てる場所で保管した。
2 .家庭内での親子の関係性が気になることについて、匿名で児童相談所へ通告した。
3 .身体的虐待が起きていると判断できるまで、引き続き保育所内での対応に留め、見守りを行った。
4 .保育所の対応方針では限界があると考え、個人で市町村へ通告した。
5 .保育所内で引き続き対応について協議ができるよう、園長や他の保育士に働きかけた。
児童虐待の疑いがある時の対応はシンプルですが、現場では様々なバイアスがかかり、対応に迷うこともありますよね。
迷った時・悩んだ時は、この問題のことを思い出して、適切な対応をとっていただきたいと思います。
ベテラン職員の方が、様々な状況を考慮しすぎるあまり、判断が鈍るということもあるかもしれません。
職員みんなでこの問題に取り組み、対応を確認し合うのもよいと思います。
では、またの記事でお会いしましょう。
(おわり)
<参考URL>
・児童虐待の防止等に関する法律/厚生労働省
・子ども虐待対応の手引き/厚生労働省