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子ども支援のポイント

【学童保育】「子どもが宿題プリントを忘れた時にコピーしてはいけないルール」について考えたこと

所長

こんにちは、がってん学童所長です

今回の記事は、Twitterのフォロワー様から寄せられたご質問へのお返事としてまとめました。

<ご質問内容>

子どもが学校に宿題を忘れて来た場合、今までなら他の子のをコピーして忘れて来た子に渡してたのですが、子どもが「学校に忘れてきました〜。コピーしてください」と簡単に言うようになり、それは問題だろうと言う事で今後はコピーしない事になりました。「お家の人と帰る途中に学校に宿題を取りに行っておうちでしてください」と子どもに言う事になったのです。 で、他の学童さんではどうなさってるのかなぁと気になりまして… 所長さんの所ではどうなさっていますか?

ご質問ヘの回答

フォロワー様の学童の職員の皆様は、「学校に忘れてきました〜。コピーしてください」と簡単に言う子どもの姿に、「これでよいのだろうか?」と自らの対応に疑問を感じて、コピーをしない方針にされたようですね。

その後の様子を観察され、その対応によって宿題プリントの忘れものがなくなったのか、ひょっとして「コピーをして」と言いに来なくなっただけで忘れ物はなくなっていないということはないか、などを見守ることが必要ではないかと思います。

もし忘れ物がなくなっていない様子があるなら、コピーをしない以外の対策を職員の皆さんで相談してみるとよいのではないでしょうか。

所長

ご質問をいただけて、とっても嬉しかったです

回答の補足として

実は、僕の学童にも、「宿題プリントをコピーしてはいけない」という暗黙のルールがありました。今回ご質問をいただいたことをきっかけに、僕自身、そのことについて、自分の思いを整理し、以下のストーリーとしてまとめました。

また、記事公開後に、法教育と学童保育について発信をされているaikoさんから、Twitterのコメントをいただきました。許可を得て、aikoさんのコメントも掲載させていただきました。

所長

学童のルールについて学びたい方やお悩みのある方はぜひ読んでみてくださいね

宿題プリントを忘れた時にコピーしてはいけない?

支援員

こんにちは、がってん学童の指導員、りえです。

私の学童には、「子どもが学校に宿題プリントを忘れてきた時、コピーをしてはいけない」という暗黙のルールがあります。

といっても、最近はかなりゆるゆるで、こないだなんか所長が、

プリント忘れちゃった!コピーして~!

と、3年生のてっちゃんから言われて、

所長

今回だけね、次から気をつけるんだよ

って、コピーしてあげていました。

支援員

こらー!!

コピー禁止のルール、所長が破ってどないやねん!

所長

ごめんなさい

まったく、困った所長なんだから!

って思っていたらね、たけし先生まで、こんなこと言い出したんです。

支援員

先輩、前から思っていたんですけど、なんで宿題のコピーが禁止なんですか?

支援員

きまってるじゃない!

宿題プリントを忘れた子どもにコピーをしたら、「忘れてもすぐにコピーしてもらえる」って安心感から、忘れ物がなくならないからだよ。

それに、コピー代金もかかるでしょうが!

支援員

な、なるほど~、じゃぁ、プリント忘れた子どもはどうするんですか?

支援員

家に帰ってから、保護者と一緒に学校まで取りに行くのよ

支援員

え?そんなんめっちゃ大変じゃん!

支援員

だからそれが甘いんだよ!

苦労をするから、次から失敗しないって思えるんじゃない?

まったく、所長もたけし先生も、しっかりしてほしいわ。

すると、今度は所長がこんなこと言い出したんです。

所長

いい機会だから、コピー禁止について、一度話し合ってみようよ

支援員

ぜひに!

支援員

望むところよ!

というわけで、「コピー禁止ルール」に関する指導員の話し合いの始まり始まり~!

「ルール」であるためのルール

ここからは、僕(所長)が説明しますね。

フォロワー様のご質問では、コピー禁止について、ルールとまでは書かれていませんが、僕の学童では、それは「ルール」として、確かに存在していました。

最初に整理しておきますが、このルールは、いわゆる子ども向けのルールではなくて、職員の行動を規制するルールです。だから、コピーした時に、「こらー!」って怒られたのは僕だったんですね

学童の職場には、このように子どもに対するルールと大人に対するルールの二つがあることを押さえた上で、以下の内容をお読みください。


所長

一つひとつのルールには、それが定められた「理由」があるよね

例えば、「宿題プリントのコピー禁止ルール」には、先ほどりえ先生が言ったように、

  • コピーをしてもらえるという安心感から忘れ物がなくならない
  • コピーするのに費用がかかる

という二つの理由があります。

僕が大切だと思うことは、そのルールが「客観的妥当性」を持っているかということなんだ。

支援員

キャッカンテキダトウセイ??

「客観的妥当性」があるってことは、簡単に言うと、「そのルールがある理由を説明でき、なおかつその理由について多くの人が共感できる」ということだね。

支援員

だめなものはだめ!

とか、

支援員

ルールだからだめ!

などというのは、なぜそのルールがあるかの理由にはなりません。

  • そのルールがある理由を説明できること
  • それが客観的に正当な理由であること
所長

これは「ルールであるためのルール」だと僕は思うんだ

だから、「宿題プリントのコピー禁止ルール」についても、上の2つの条件を満たしているかを一緒に考えてみようよ。

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「費用がかかるからだめ」という理由について

まず、「宿題プリントのコピー禁止ルール」の理由のうちの「費用がかかるから」ということについて考えてみよう。

もし、このことを大人に言ったらどういう返事が返ってくると思う?

所長

費用がかかるからコピーはできないんです

保護者

あら、それならお代金お支払いします

って、たいていの大人は言うのではないだろうか。

つまり、この説明は、相手がお金を持っていない子どもだから通用するといえるかもしれないね

支援員

う、たしかに・・・

もっと言うとね、例えば、子どもの宿題をコピーしない対応について、こんなことを言う保護者がでてきたら、なんと返事したらいい?

保護者

コピー代金支払うから、子どもがプリント忘れた時は、コピーしてください!!

支援員

いや、お金をもらってもコピーをするわけにはいきません

保護者

だったら何が問題なんですか!?

こんなことになってしまわないだろうか。

これは、保護者からのクレームを回避するということで言ってるんじゃないんだよ。

子どもにしか通用しないということは、その説明に客観的妥当性がないということかもしれないと、自ら疑ってみることが大切だと思うんだ。

所長

えらそうに言うけど、僕も昔からそんな風に思えたわけじゃないよ。経験年数を重ねる中で、そのように考えられるようになってきたんだ

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【学童保育】閉所時間を過ぎてもお迎えに来ない保護者に、私たち指導員がとった対応

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より良いルールに作り変えていくことが大切

うまく説明ができないルールは、それを執行する職員の中に、迷いや疑念を生むことがある。

支援員

私はいいと思ってるんだけどさ、ルールで決まってるからしょうがないのよ

とか、

支援員

こんなルールを決めた所長がおかしいんだ

などということを、職員が頭の中で感じてしまっている、この状態は、あまりよいと思わないよね。

心のどこかでひっかかっていたり、うまく説明できないルールを子どもに押し付けることは、職員にとっても苦痛だと思うんだ。

支援員

自分自身が納得していて、自信を持って子どもに伝えられる方がいいと思う

所長

そうだよね。だからこうやってみんなで話し合うことが大事なんだ

そうして、より良いルールに作り変えていけばいいんだ

  • ルールは絶対的なものではない。

これも、大事なポイントだと思う。

子どもに不利益を生むルールは注意が必要

所長

念のために付け加えておくね

例えば、怪我や事故の防止など、子どもの安全に関するルールなら、ごり押しが通用することもあるかもしれない。

しかし、「宿題のプリントをコピーしないルール」など、子どもの不利益となる対応は、特に十分に検証されるべきだと思うんだ。

支援員

不利益?

所長

宿題のプリントをコピーしないという対応は、厳しくみると、子どもの学ぶ権利を侵害しているととらえることができると思う

「コピーして」と指導員に言ってくるということは、忘れ物はともかくとして、その子は宿題をやらなくちゃいけないと思っている、学ぶ意欲は持っているということだよね。

宿題プリント忘れたから、コピーしてください!

所長

コピーしてまで宿題をやろうとするなんて、なんて賢い子どもなんだ!!

世の中には、こんな風に思って、喜んでコピーをしてあげる人もいるかもしれない。

支援員

だけど、コピーしちゃったら、またコピーしてもらえるって安心して、忘れ物がなくならないかもしれないじゃない

所長

そうなんだ、結局は、そこが最大の焦点となるんだよね

コピー禁止が本当に忘れ物再発防止につながるのか?

結局、「宿題プリントのコピー禁止ルール」を考える時、より重要なポイントは、費用の問題ではなく、「子どもにとってどうなのか」、ということになる。

つまり、「コピーをしてもらえるという安心感から、宿題プリントの忘れ物がなくならないから」という理由に、客観的妥当性はあるのか?ということが検証されるべきなんだ。

所長

あらためてよく考えてほしいんだけど、本当にコピーしなかったら忘れ物がなくなるんだろうか

  • コピーをしたら忘れ物がなくならない
  • コピーをしなかったら忘れ物がなくなる

これらのことに、エビデンスはあるんだろうか。ひょっとして、僕たち職員が、そのように思い込んでいるだけではないだろうか

支援員

う、う~・・・

忘れ物が多いこどもへの支援という観点から

所長

忘れ物の支援という観点でも考えてみようか

宿題をしょっちゅう忘れて困っている子どもがいる。

その子にコピーをしないことが、その子が忘れ物を今後しないようになるための支援となっているだろうか。

逆に、宿題のコピーをしてあげることがその子への支援になると考えられないだろうか。

いい機会だから、宿題プリントの忘れ物が多い、てっちゃんへの支援について考えてみようよ。

支援員

学校でプリントをもらったら、すぐにプリントケースにしまうようにてっちゃんに教えるとか?

支援員

担任の先生に、最近、てっちゃんのプリント忘れが多いことを伝えて、先生からもサポートしてもらうとか?

支援員

あ!宿題プリントをちゃんと持って帰ってきた時にほめてあげるとか!

所長

どの対策も具体的で効果がありそうだね!

このような具体的な支援と合わせて、それでもてっちゃんが宿題プリントを忘れちゃった時には、学童でどのような対応をするのかを考えてみることが大切かもしれないよね。

そして、その際には、

支援員

てっちゃんはどうしたらいいと思う?

う~ん・・・

週3回までオッケーにしたら?

など、子どもと一緒に相談したり、子どもの意見を取り入れることで、より良い解決方法が見つかる場合が多いんだよ

ルールによる一律の対応のメリットとデメリット

支援員

所長、もうこうなったら、コピー禁止のルールを禁止にしちゃおうよ!

支援員

私もそれでいいと思います!

所長

ところが、僕はそうは思わないんだ

「宿題のコピーをしない」判断が常に間違っているとか、常に正しいとかは言い切れないんじゃないかな。

ルールによって一律の対応をすることは、個々の子どもに応じた、きめ細やかな対応ができなくなるというデメリットがあるんだよ。

だから、この記事で話してきた内容を頭の片隅に置きながら、その時々で、その子どもにあった、最善の対応を考えていきたいと思うんだ。

所長

全部ひっくり返すようなこと言うけどさ、客観的妥当性がなくっても、子どもにとって必要だと思う対応をする時もあるよ

支援員

これまでの説明を自ら覆すこと言ってどうするんですか

支援員

職員によって対応が変わっちゃってもいいの?

所長

その人が、子どもを思ってとった対応なら、その判断を尊重したいと思う

もちろん、その対応が良かったのかどうかを振り返ることは大事だ。

職員集団が、子どもの成長と子どもの権利を守るという大きな方向性で一致していたら、個別の対応が問題になることは、あまりないと思うんだ。

支援員

けど、私はルールで決まっていた方がやりやすいかな

所長

たしかにね。ルールを決めると働きやすくなるというメリットがあるものね

だけどさ、「自ら判断することが大変だから、ルールを決めて対応を統一してほしい」という考え方は、より良い子どもの支援にはつながらないんじゃないかな。

もちろん、これも、職員チームの成熟度など、職場によってケース・バイ・ケースなので、ルールによる対応のメリットとデメリットを考えつつ、みんなで検討することが大切だと思う。

支援員

私は、職員の働きやすさも大切にしたいと思います

所長

色々とえらそうなことを言ってごめんね。「宿題プリントコピー禁止のルール」は、りえ先生ががってん学童に来た時にはもうあったから、この職場に一番長くいる僕に一番の責任があるんだ。今まで放置していて悪かったよ。

法教育の専門家aikoさんのコメント

実は、ここまでの内容を公開した後に、法教育と学童保育についてTwitterで発信されているaikoさんが、記事内容に関するコメントをくださいました。

支援員

専門家からの貴重なご意見として、許可をいただき掲載させていただきます

<aikoさんからのコメント内容>

所長さんが仰るところの、ルールに客観的妥当性があるかを判断するための視点、ものさしを学んだり、原則としては妥当性があるルールでも例外を認めるべき場合はないかを考えたりしたりするのも法教育なので。法教育と学童保育について発信している身としてもとても興味深い事例でした。

ルールの合理性を判断するための視点として、そのルールを作る「目的」が正当か、そのルールは「目的達成の手段」として相当か(正当な目的達成のために必要性、相当性がある手段か)という思考をします。宿題プリントを忘れることを防止する、という目的は正当であると言えると思います。

一方で、「宿題プリントのコピー禁止」が、「宿題プリントの忘れ物防止」の目的達成のために必要かというと、記事でも触れられているように、「コピー禁止が忘れ物をなくす」かどうかにはエビデンスがなく、目的達成の手段としての必要性が高いと言えるかには疑問があります。

次に「相当性」ですが、これは、そのルールによって制限される利益があるか、制限される利益がどの程度重要なものかを考慮するものと理解頂ければいいかと思います。記事でも指摘があるように、コピー一律禁止は、宿題をする意欲はある子も学童保育にいる時間に宿題ができないという不利益がある。

噛み砕いてまとめると 、

  • そのルールの目的は正当?
  • そのルールが採る手段は、目的達成のために合理的?(必要性)
  • 他の大事な利益を犠牲にしすぎていない?そのルールより、他の利益を制限する度合いの低い手段はない?(相当性)

という思考です。

所長さんは上記1、2、3のような視点を内容としてはきちんと検討されていて素晴らしいと思いました(目的が正当だとそこで思考停止することも多いので)! ただ、客観的妥当性という言葉だと、「ルールを検証するための物差し」としては抽象的と感じ、法教育的な思考を紹介させて頂きました。

支援員

ありがとうございます!めちゃくちゃ勉強になりました!

所長

aikoさんのコメントをもとに、私自身あらためて記事内容を振り返ってみたいと思います

最後に・・・

今回の記事は、フォロワー様の相談をきっかけに、「宿題プリントコピー禁止」のルールや、職場の対応としてルールについて考えを深めることができました。

所長

僕の中でもモヤモヤがあったことだから、この機会に考えることができてよかったです

職場には色々なルールがありますよね。古くからあるルールの中には、時代に合っていないものや再検証が必要なものがあると思います。

全てを洗い出す必要はありません。問題になった時に、その都度みんなで考え合えばいいんです。

今回の記事では、職員間の話し合いがメインとなりましたが、学童のルールについては子どもと一緒に相談して考えるということは、めちゃくちゃ大切だと思います。

所長

最後になりましたが、私は、フォロワー様の学童で、宿題のコピーを中止したという対応は、現場の判断として尊重します

この記事の内容は、あくまでもこの記事の中でのお話。答えは、目の前の子どもと向き合う指導員の皆さんの中にあります。

今後のより良い対応のために、この記事が少しでもお役に立てると嬉しいです。

ご質問をくださったフォロワー様、専門家としてのご意見をくださったaikoさん、この度は本当にありがとうございました。

支援員

読者の皆さんで、お悩みや疑問がある方は、Twitterや当サイトのメール送信フォームからご意見をくださいね

支援員

僕たちが、(できる範囲で)真剣にお答えします!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日からも、がんばっていきましょ~!

(おしまい)

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