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子ども支援のポイント

コロナ禍のもとで「子どもの意見を企画段階から取り入れた行事」をどのように行えばよいのか【WITHコロナ時代の子どもの行事・イベント<後編>】

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所長

この記事は続きです

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子どもたちに保障したい「豊かな体験」とは【WITHコロナ時代の子どもの行事・イベント<中編>】

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前回のあらすじ

支援員

がってん学童の指導員、りえです

2020年度、新型コロナウィルスの到来によって、私の勤務先の学童保育では、様々な行事が中止となりました。

そんな中、私たちは、「子どもにとって豊かな体験」について考えを深め、棚上げになっていた「冬の合宿」に向けた職員間の議論を始めたんです。

子どもにとって「豊か」か「豊かじゃないか」を決めるのは私たち大人じゃない。

支援員

こ、子どもの意見が大事なんだ!

だから、冬の合宿をやるかやらないかについても、子どもに意見を聞くべきだ」という、たけし先生の渾身の訴えに対して、私は、

支援員

甘い!

子どもに聞いて、やるって決まっても、本当に大人として責任がもてるの!?

って切り返したんです。

それで所長が、

所長

まず我々が、どのような形で子どもたちに意見を求めるのかもふくめて、合宿実施の可能性をよくよく検討してみよう

って提案したんです。ここまでが前回のお話です。

子どもの意見を行事企画に取り入れることについて

放課後児童クラブ運営指針に書いてあること

コロナ禍以前には、私たちの学童の取り組みは、子どもたちの意見をもとに、一緒に相談して作ることを大切にしてきました。

これって実は、「放課後児童クラブ運営指針」にも書いてあるんです。

支援員

まず、第1章「総則」の中の「放課後児童クラブの社会的責任」の中にこんなふうにに書いてあります

①放課後児童クラブは、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人ひとりの人格を尊重して育成支援を行い、子どもに影響のある事柄に関して子どもが意見を述べ、参加することを保障する必要がある

支援員

第3章「放課後児童クラブにおける育成支援の内容」の中にもこんなことが書いてあるね

「子どもが自分の気持ちや意見を表現することができるように援助し、放課後児童クラブの生活に主体的に関わることができるようにする。」

行事等の活動では、企画の段階から子どもの意見を反映させる機会を設けるなど、様々な発達の過程にある子どもがそれぞれに主体的に運営に関わることができるように工夫する。

支援員

だから、合宿についても、子どもたちの意見を尊重しないといけない!

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「放課後児童クラブ運営指針」全文

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児童の権利に関する条約「意見表明権」について

放課後児童クラブ運営指針には、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の理念に基づき、育成支援(子どもたちへの支援)を行うことの大切さが書かれています。

支援員

子どもの権利条約第12条は「意見表明権」です

子どもの権利条約 第12条「意見表明権」

締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される

私たちのことを私たち抜きで決めないで」(Nothing about us waithout us)という言葉もあります。この言葉は、2014年に日本政府、批准した「障害者の権利に関する条約」を作成するにあたっての対言葉で、同条約は障害者のある当事者の参加により作成されました。(参考:子どもの権利条約を学童保育に活かす/安倍芳絵著 /高文研)

支援員

ほら、夏のキャンプの中止を、僕たち大人だけの判断で中止にして、子どもの意見を聞かなかったのは、やっぱりだめだったんじゃないか

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【学童保育】子どもの最善の利益って?「子どもの権利条約」を学ぼう

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児童の権利条約「生存権」について

所長

そうとは言えないよ

子どもの権利条約では、「意見表明権」と同時に、「生命・生存及び発達に対する権利」をすべての子どもたちに保証しているんだ

生命・生存及び発達に対する権利とは、「すべての子どもの命が守られ、成長できること」が保障される権利なんです。

子どもの権利条約の視点からしても、新型コロナウィルスという未知のウィルスが到来する中で、子どもたちの安全や健康を守ることを最優先に考えた判断は必要だったんです。

所長

全国一斉休校や、小学校の臨時休校、学級閉鎖などに子どもたちの意見が反映されているだろうか?

支援員

反映されていないっす・・・

このことからもわかるように、緊急事態には、子どもの意見を聞く以前に、素早い行動で、大人が子どもの安全を守らないといけない場合があるんです。

「意見表明権」は限定的なもの?

支援員

それって、子どもの「意見表明権」は、子どもの安全が保障されたうえで尊重される「限定的なもの」ってこと?

所長

子どもの安全は何より大切だと思うけど、その後の対応次第じゃないだろうか

短期的には、子どもの意見表明権より「生存権」を守らないといけない場面が実際にあります。しかし、そんな大人の対応について、後から子どもの意見を収集し、取り組みや制度の改善につなげるなど、長期的に「子どもの意見表明権」を保障することはできると思う。

支援員

今回のコロナ禍での一斉休校や様々な対応について、子どもたちの意見を集めて、今後の対応に生かすことができるってことですね

所長

そうだね

僕たちの職場や政府や自治体などで、コロナ禍の対応を振り返る時には、子どもたちの意見を聞くべきだよ

意見は表明できても、その通りになるとは限らない

所長

それと、基本的なことなんだけど

子どもの意見は尊重するけど、すべてが子どもの思い通りになるわけではないよ

支援員

どういうこと?

所長

体育の授業が大好きな子が、一週間の授業全部体育がいい!って言ったらその通りになるかな?

6歳の子どもが毎月のお小遣いに3万円希望したとして、その通りになるかな?

支援員

なるほど・・・

つまり、意見を表明する自由は保障され、その意見は尊重されるべきなんだけど、物事を決定するうえでは、大人の意見や判断・様々な事情を合わせて総合的に検討されるんだ。

大切なことは、子どもの意見を聞いたうえで、その通りにできない場合は、なぜできないのかを子どもにわかるように丁寧に説明することなんだよ

所長

そういった大人の姿勢が、子どもの意見を尊重するということなんだと僕は思っている

支援員

子どもの意見を無視するでもない、鵜吞みするでもない

その意見を尊重し、ダメな時はその理由を説明するんですね

支援員

よく考えたら、大人の意見だって、全部その通りになることなんてないですよね

子どもの意見表明権については、また別の記事で取り上げたいと思います。

話をもとの合宿にもどしますね。

合宿について、指導員の激論

支援員

ってことはやっぱり、合宿について子どもたちの意見を聞いて、そのうえで考えるのがいいってことですよね

所長

そのためにも、まず僕たち指導員がしっかり議論をしようじゃないか

この時に私たちが話し合った内容は以下のようなものでした。

  • 先行きが不透明な状況で、もし、子どもが「やりたいと」決めた時に本当に責任を持てるのか
  • 子どもを焚きつけるようなことをして、また中止で、結局はがっかりさせてしまうことになるのではないか
  • 合宿は中止にして、代わりの実施可能な行事を提案したらどうか?
  • 今年度の状況では、全員参加を求めるわけにはいかない、合宿に参加できる子とできない子に分断してしまうことになってしまう
  • 保護者から批判を受けるのではないか、学校も学童の取り組みに不安を感じるのではないか
  • 子どもに開催をゆだねることは、指導員の責任逃れではないのか、中止にして、指導員が憎まれ役となる必要があるのではないか
支援員

結構本気で意見を出し合ったよね

支援員

もう、紛糾だったわよ!!

指導員それぞれの、熱い思いや現実的な意見が噴出し交錯しました。

私たちが悩んだことの一つは、もし合宿をやるとした時に、保護者が心配をして参加させないケースがあるのではないかということでした。

そうなると、子どもたちを参加する子と参加できない子に分断してしまうことになってしまいます。

支援員

保護者の理解を得ることは必須ね

所長

「生存の権利」が保障できない活動には、所長として許可を出せないから、安全面の対策をどこまでできるかが肝心だよ

保護者の理解を得るためにもそこがポイントになると思う

子どもが企画からかかわることの意義

職員で熱い議論をしてよかった点は、子どもが企画からかかわる意義について、考えを深めることができたことです。

支援員

子どもが合宿の企画からかかわる意義について、私たちはこのように考えました

  • 困難な状況を乗り越えて、自分たちの力で合宿を実現した経験が、子どもたちの人生に役立つ
  • たとえ中止になったとしても、合宿を目指して取り組んだ過程は大切な経験になる
  • 押しつけの感染予防ではなく、自らが感染予防について考えるきっかけとなる

特に3つ目の意義については、感染予防について、企画段階から子どもたち自身が考えることは、今後のWITHコロナ時代の中で、子どもたちが主体的に感染予防を行うことにつながると思いました。

子どもの発達過程を考慮して

ここまでの職員間の議論を踏まえて、現実的に、人数の問題、移動の問題、日程の問題、そして感染対策について子ども自身が主体的な議論や当日の行動をできる力があるかどうかなどが、最終的な問題となりました。

支援員

子どもたちが感染対策について自ら考えることには意味がある

ただ、低学年の子どもにそこまで議論する力や計画力があるかな?

支援員

そうだわね・・・

高学年なら、これまでも会議で様々な行事を話し合い実現してきた経験があるから可能だと思うけど・・・

ここで改めて子どもの権利条約を見てみますね。

こんな風に書いてあります・

子どもの権利条約 第12条「意見表明権」

締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される。

放課後児童クラブ運営指針にも、こんな風に書かれています。

・行事等の活動では、企画の段階から子どもの意見を反映させる機会を設けるなど、様々な発達の過程にある子どもがそれぞれに主体的に運営に関わることができるように工夫する。

二つの記述は、それぞれに、子どもの意見を取り入れるためには、その発達過程を考慮することの必要性を述べています。

支援員

私も経験あるんだけどさ、結構深い議論が必要な問題で、子どもがあっさりと結論に至っちゃうことがあったんだ・・・

(以下、回想シーン)

支援員

みんなの意見を聞いて決めたいと思います・・・

(2分後)

賛成!

私も!

もう遊んでもいいだろ?

支援員

決まんのはや!!

ってなことが、度々あったんです。

これは、子どもの発達過程と意見を求める内容の不一致が原因でもあると思うんです。

そういう意味では、子どもの意見を求める際には、子どもたちの力を見極める指導員の力量というのはやっぱり必要なのだと思います。

冬の合宿について、私たちが出した結論は・・・

長い職員間の議論を経て、私たち指導員は、冬の合宿について、次のような対応をとるということになりました。

  • 3年生の合宿は、代替案として「遠足」を提案する
  • 遠足の行き先は、指導員が複数案を提示し、その中から子どもが行きたい場所を選び、活動内容を考える
  • 高学年の合宿は、「やる」か「やらないか」から子どもたちと一緒に考える
所長

今年度の状況を考えると、妥当な線だと僕は思うけど

私たちの対応がどうだったかは賛否あると思います。

ただ、言い訳ではないですが、これは私たち指導員が、「合宿について子どもにどのように意見を求めるのか」について考えた結果だったんです

なので、子どもへの提案であり決定事項ではありません。

後は、この指導員の提案に対して、子どもたちがどんな意見を表明するのか、その意見を聞いてみようというのが、この時点の私たちのスタンスでした。

さぁ、いよいよ、子どもたちの会議を開いて、遠足や合宿のことを相談しよう!ってその前に、まだやることがありました。

保護者代表と意見交換をする

コロナ禍で行事を行う上では、保護者の理解がないと、結局は子どもが参加できなくなってしまう。

私たちは、保護者会の役員会で、これまでの職員間での議論を踏まえた、合宿の計画について提案し、意見をもらうことにしました

なんと偶然にも、この年の役員さんの中には、医療従事者のお母さんが二人もいたんです。

相手は感染予防のプロだから、結構緊張しながら提案しました。

支援員

けどさ、専門家の意見がもらえるなんて、こんな素晴らしいことないと思うんだ

所長

よい心意気だね

厳しい意見も予想されるけど、避けては通れない道だよ

役員会での意見交流は、遠回りのようで、合宿の実現には結局は近道になると思いました。

役員さんとの間で、コンセンサスがとれれば、その後の準備にとっては大きな力となります。

支援員

結果は、役員の皆さん、指導員と子どもたちの挑戦を応援してくれるという意見でまとまりました

支援員

ほっとした~

いよいよ、子どもの会議で合宿を提案

支援員

そしてついに、子どもたちに合宿について提案する日がやってきたんです

3年生の会議では、私が、アイデアをしぼって考えた、めっちゃんこ楽しそうな3つの「おでかけプラン」を子どもたちにプレゼンしました。

画像をたくさん使って、スライドショーで提案をして、準備のかいがあり、子どもたちは遠足の魅力を感じてわくわくしているようでした。

どれも楽しそうだよ!

迷っちゃうね~

支援員

でしょ~?

どのプランを選ぶかはあなたたち次第よ!

子どもの中で意見が分かれましたが、こちらの方は、何とかまとまりそうです。

もちろん私は、なぜ、大人が今回このような「合宿ではなく遠足を行うという判断をしたのか」を、3年生の子どもたちに心を込めて説明しました

支援員

問題は、高学年の方ね・・・

高学年会議で、合宿を「やる・やらない」を相談した結果・・・

高学年会議の方は、たけし先生が担当しました。

指導員で打ち合わせた通り、合宿の相談をするにあたって、たけし先生は子どもたちに次のように説明しました。

支援員

夏の高学年キャンプは、中止になったけど、冬の合宿は、みんなの意見を聞いて、やるのかやらないのかを決めたいと思います

けど、その前にみんなに確認しておきたいことがあるんだ

  • 夏のキャンプは中止にしたけど、これまで高学年の行事は、みんなの意見をもとに行ってきた
  • だから、冬の合宿については、みんなの意見でやるかやらないかを決めたいと僕たち指導員は考えている
  • ただし、みんなで考えたとしても、結局は中止になる場合があることを最初に伝えておきたい
  • 中止になる一つ目の条件は、緊急事態宣言等が発令されたときだ
  • その時は、僕たち指導員は君たちの健康を守ることを第一に中止の判断をする
  • 二つ目の条件は、学童が臨時休所になった時だ
  • 三つ目の条件は、高学年メンバーの中で陽性者がでた時だ
  • その時に陽性になった子を責めない覚悟がみんなにあるだろうか
  • 正直に言って、今言った三つの条件が出てくる可能性は十分にありえる
  • 以上のことを考えたうえで、合宿をやるかやらないかを話し合ってほしい
支援員

以上!

高学年の子どもたちが出した結論は?

支援員

・・・でどうなったの高学年の話合い

支援員

い、いやそれが・・・

僕の提案の仕方が、結構難題ですよって感じの伝え方だったからかもしれないけど、子どもたちのチャレンジ精神に火がついたみたいで、全員一致で、「合宿をやる」に決まりました。

支援員

そこまでは予想通りだったんですけど・・・

話がとんとん拍子に進んでいって、合宿の場所をどこにするかになって・・・

〇〇山の家!

学童に泊まる!

って男女の意見が真っ二つに割れたんです。

支援員

想像つくわ・・・

合宿の実現に向けて一致団結するかと思いきや、ここにきて男女の確執が表面化するとは・・・。

支援員

・・・で?あなた子どもたちになんて言ったの?

支援員

「それなら、男女別々に企画を進めて、どっちの企画が素晴らしいか勝負したらいいんじゃない?」って言いました

あら?まずかった?

支援員

な、なんだと~?

そんな男女の溝をさらに深める対応してどないするねん!って私は思ったんですけど、所長は、

所長

面白い展開だよ

どちらも素晴らしい案が出たら、そのまま二つの合宿をやればいいんじゃないかな

それはそれで、密が回避できて感染防止になるよ

大体、男子はいつも女子を頼っているばかりだから、男子の力だけででどこまでやれるのか見てみたいよ

なんて言ってるんです。まったくもう!

けどね、皆さん、子どもたちに任せてみたら、私たち指導員の発想の上を行く展開がしょっちゅうあるんですよね。

支援員

やっぱり子どもはすごいわ

一応、結末だけお伝えしておきますね。

男女別の企画は、ある時点で突然女子が、

みんなで学童で泊まることにする!

って言いだして、仲良く学童で合宿をすることになりました。

合宿の日程は一度コロナの影響で延期になったんですけれど、年度末の最後の週末で、何とか全員参加で無事に終えることができました。

もちろん、大変なこともたくさんあって、それはこの記事の中にもちょっと書いています。よかったら見てくださいね。

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さいごに・・・

支援員

いかがでしたか?

今回の記事では、私たちの学童で、2020年度に取り組んだ冬の行事をもとに、子どもたちの意見を企画段階から取り入れることの大切さや難しさをお伝えしてきました。

この記事では書いていないのですが、私たちは高学年会議で子どもたちが話し合いを行う前の段階で、指導員間でかなり詳しく議論の道筋を話し合いました

支援員

指導員が敷いたレールの上を子どもの会議を走らせるためではありません

支援員

子どもたちが話し合う中での問題となるポイントで、解決のヒントを示すことができるようにするためです

私たちは、コロナ禍での企画会議は、様々な状況の変化や安全面の配慮などが複雑に絡み合っていて、高学年の子どもたちにとってもかなり難しい課題だと認識していたんです。

結果的には、そんな指導員のシュミレーションとは全く別の道筋をたどって子どもたちは合宿を成功させました。

けどやっぱり、ところどころで指導員の助け舟が必要な場面もやっぱりあって、事前に指導員間で議論のシュミレーションをしておいてよかったと思いました。

支援員

それでね、ここまで読んでくださった人に、裏話をするとね

実は、子どもたちの中に「合宿に行きたくない!」って言った人がいてね、その理由がなんと、

めんどくさいから!

支援員

だったの

結局、その子も合宿に来て、めっちゃ楽しんで帰ったんだけどさ。

色々本当に大変で楽しい合宿でした!

(おしまい)

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