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目次
ある日のがってん学童。
子どもたちが次々と学校から帰ってきた。
最初に帰ってきたのは、2年生のさっちゃんだった。
さっちゃん、おかえり~!!
たけし先生、ただいま~!
次に帰ってきたのは・・・
おかえり!みさとちゃん!
・・・
お、おかえり・・・
チッ
6年生のみさとちゃん、こんな感じで向こうへ行ってしまった。
とんがってんな~。すごい威圧感だよな。最近は話しかけても、完全に無視だし。
先輩、おれ嫌われてるよね、絶対。
いい子なんだけど・・・、たけし先生にはきついよね~。
みさとも、2年生の頃は、さっちゃんみたいな無邪気な笑顔をたくさんみせていたんだよ。
うそ?
そんなみさとちゃんのことは想像ができない・・・。いったい何がどうなって、あんなつんつんになっちまったの~?
・・・というわけで、今回の記事は、児童期の発達の中で子どもが経験する「揺れ」や「悩み」と、そんな子どもたちに寄り添う僕たち学童保育指導員のかかわりについて、学んでいきたいと思います。
この記事は、『日本の学童ほいく』2018年1月号に掲載された、「子どもの自己理解の発達に大人ができること」(名古屋短期大学 小川絢子著)の内容を参考にしています。
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自己理解が発達すると自分のことが「好き」でなくなる?
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みさとがあんふうに、素直な態度でいられないのは、自己理解の発達がすすんでいる証拠でもあるんだよ。
自己理解?
自己理解っていうのは、自分の特徴なんかを自分自身で認識できる力のことだね。
自己理解は、子どもの成長にともなって発達し、9・10歳頃に質的な変化が起こると言われているんだ。
自己理解の変化
子どもは、幼児期の終わりから児童期のはじめ頃に、自分の特徴を言葉で表現することができるようになる。
例えば、2年生のさっちゃんは、自分のことを、「かわいい」などと言うことができるようになるんだ。
他にも、
髪が長い
とか、
おもちゃをいっぱい持ってる
なんていうふうに、自分の外見など目に見えることを自分の特徴として言えるようになる。
一方、6年生のみさとに、「自分の特徴は?」ってたずねたら、
勉強ができる
とか、
忘れ物が多い
など、行動面の特徴について答えたり、「不親切」とか「不真面目」など、性格など内面的な事柄について答えることが多いよ。
このような変化は、児童期(6歳から12歳頃)の間に、子どもが自分への理解を深めて、自分の内面の特徴に気づくようになることを表しているんだ。
自分のことが「好き」でなくなる?
ほかにも、
自分のいいところ・悪いところをいってみてくれる?
ってきかれたら、低学年の子どもは、自分のいいところだけを答えたり、いいところ・悪いところの両方を答える子が多いのに対して、高学年になると、自分の悪いところだけを答える子どもが増えると言われているんだ。
今の自分が好き?
という質問に対する子どもの答えを学年別にまとめたアンケート調査(国立青少年教育振興機構 2016年調査)では、4年生から6年生の高学年の子どものうち、約4割の子どもが、
あまり思わない
まったく思わない
と回答したという調査結果がある。
これは、自己理解の発達にともなって、子どもが自分の内面に注目するようになり、そのことで自分の「できなさ」に気付いたりして、自分が「好きではなくなる」時期に入ることを意味しているんだよ。
自己理解の変化に影響を与える二つのこと
このような変化には、次の2つのことが影響していると言われているよ。
- 子ども自身の考える力の発達
- 大人や友達との関係性
物事を考えたり、理解したりする力は、9・10歳を節目に資的な変化が起こる。人との比較の中で自分のことを客観的にとらえる力がついてくるんだ。
そして、1・2年生の頃は、親や先生といった身近な大人から「大切に思われているかどうか」が自分の理解に大きく関わっていることに対して、3年生頃以降では、友達とのかかわりの中で、「自分は仲間から必要とされているか?」「仲間と同じかどうか?」が自分を理解するうえで大切になってくる。
これらのことを、児童期の前半と後半に分けてもう少し詳しく見てみよう。
児童期前半の自己理解と大切にしたいかかわり
児童期前半というと、だいたい低学年の子ども、がってん学童では、
めぐちゃん
てっちゃん
かける君
さっちゃん
たちだね。
成長した自分を実感できるようになる「自己形成視」
小学校に入学する少し前くらいの時期になると、過去の自分と現在の自分をつなげて考え、「成長した自分」を実感できるようになっていくと言われている。
この、成長した自分が感じられる力のことを「自己形成視」と言うんだ。
低学年の頃の時期には、体が大きくなったり、文字を書いたり読めるようになったり、大きくなった自分を実感する機会が多いよね。
自己中心性は大切な心の動き
低学年の頃の時期には、幼児期の発達的特徴を残している子どもも多いんだけど、物事の考えかたについて「自分を中心に考えやすく、他者の視点に立ちにくい」というのもその一つだよ。
「自己中心性」だね。
自己中心性を、ネガティブな意味合いでとらえる人がいるけど、自己理解の発達に関して言うと、人との比較をせずに、自分のことを「かわいい」や「大好き」と思える、とても大切な心の働きでもあるんだ。
大人の価値観をそのまま取り入れてしまうことも
この時期の子どもたちは、大人の価値観にとても敏感で、大人が言ったことを疑ったり、別の意見や複数の意見と比較したりしないという特徴がある。大人の考えや発言を「絶対的なもの」として、そのまま取り込んでしまいがちなんだね。
このような特徴は「他律的道徳判断」と言われる。
身近な大人から愛されたい、認められたいという気持ちが強くて、大人がほめてくれることを自分のやるべきこととして、一生懸命に取り組もうとするんだ。
だから危うさもあるんだ。
あぶないの?
大人の価値観にあてはまらないと思ったら、自分を否定しちゃう。
大人が一つの価値観だけを「よいもの」として子どもに伝えると、その価値観に見合わない自分や他者を否定的にとらえてしまったり、成長した自分を実感することができなくなってしまったりすることがある。こうした点に留意しながら、子どもとかかわっていくことが大切なんだ。
低学年の時期に大切にしたい活動
以上のような発達的特徴を踏まえて、この時期に学童保育で大切にしたいことは、
- 多様な価値観を持つ活動を保障する
- 一つの活動に複数の価値があることを大人が伝えていく
そんな活動をたくさん取り組んでいくということなんだ。
例えば、1年生のめぐちゃんは、本を読んだり絵を描いたりするのが好きだけど、外で遊ぶのはあまり好きじゃない。
・・・図書室で静かに過ごすのが好き
そんなめぐちゃんが、もし、「子どもは全員が外で遊ぶべき!」って方針で毎日外遊びをしないといけない学童に入ったら、辛い思いをすることになるだろう。めぐちゃんにとったら、読書や絵を描くことや折り紙や手芸など、自由に選べる遊びの幅があるってことは、安心して学童に通うためにとても大切なことなんだよ。
そして、絵を描くという一つの活動の中においても、上手に描くことが素晴らしいという一律の価値ではなく、面白い絵や楽しい絵、オリジナリティーを認め合ったり、様々な画材を使うことや、道具を大切にすること、描いた絵がポスターになって役にたったり、そばにいる指導員が様々な価値を大切にして、そんな一つひとつに声をかけていくようなかかわりを通して、子どもは多様な価値に気付き学んでいくことができるようになるんだね。
児童期後半の自己理解と大切にしたいかかわり
一方、児童期の後半といったら、高学年の子ども達だね。
がってん学童では、
6年生のみさとちゃん
5年生のたくま君
4年生のけんちゃん
たちだね。けんちゃんは、まだまだ低学年の名残りが残っているけどね。
自分のことを相手の視点からとらえる「自己客観視」
児童期前半の頃は、自分自身の成長を感じることができる「自己形成視」の時期だったけど、9・10歳を節目に、考える力が質的に変わり、自分の行動や性格などを相手の視点から客観的にとらえることができるようになってくる。
このことを「自己客観視」と呼ぶよ。
さっきも話したように、「勉強が好き」「算数は苦手」など、自分の性格や行動などを客観的にとらえることが可能になる。
そういった中で、自分に対する評価が否定的になり始める時期でもあるんだ。
自分の様々な側面を「領域的」に評価することで・・・
自分のことを否定的にとらえるようになるのは、自分に様々な側面があることに気付き、各側面について領域的に評価することができるようになるからだと言われている。
たとえば、今までは勉強について、「これは難しい」「これは簡単」というように理解をしていたのが、学習が進む中で、「国語は苦手」「算数は好き」というように、まとまりで評価をするようになる。
そんな中で、失敗体験が重なると、「自分は勉強が苦手だ」というように、さらに大きなまとまりで認識をしてしまうようになる。
それが自分に対する評価を下げてしまうことにつながるんだね。
大人との関係よりも友達との関係が重要に
この時期、子どもたちは、「ギャングエイジ」という言葉に代表されるように、遊びを中心に強く結びついた仲間関係を作るようなる。
仲間との活動の中で「約束を守る」「自分の役割に責任を持つ」など、社会のルールを学んだり、同じ価値観を持つ仲間を信頼するようになっていく。
仲間との関係性の中で、自分の存在を確認し、自分の価値観を作っていくんだね。
大人から示されたルールより、自分たちで作りだしたルールを重視し、守りたいと思うようになることを「自律的道徳判断」という。
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排他的・閉鎖的になる場合も
このような同年齢の子ども同士の仲間関係は、排他的・閉鎖的になる傾向が強く、大人に対して反抗的になったり、仲間のメンバー以外の子どもと遊ぶことを拒むようになったりすることがあるんだ。
みさとちゃんだ・・・
仲間集団の中でも、仲間と「同じ」であることを必要以上に気にしたり、自分の気持ちを押さえたりする子どもたちもでてくるよ。
色々苦労があるんだよ。
高学年の時期に大切にしたい活動
以上のような発達的特徴を踏まえて、高学年の頃の時期には、
- 年齢の近い子どもで行う手応えある自治活動
- 異年齢集団の中での教えあいや助け合いの経験
の両方を保障していくことが大切なんだ。
たとえば、誕生日会や遠足の企画を子ども達で話し合って実行したり、手作り品をバザーで販売して、その収益で何かを買ったりするような経験だね。
このような自治活動の中で、役割を担うことで、自分がなくてはならない必要な存在であるという実感をもつことが大切なんだ。
役割分担をしたり、話し合う過程で自分とは違う考え方にふれることもできる。自分自身や仲間の持ち味や価値観の違いに気付くきっかけにもなるだろう。
そんな仲間と目標に向かって努力したことが、仲間だけでなく、まわりの人からも認められたり感謝されたりすることで、子どもたちは視野を広げていくことができるんだね。
異年齢集団の中で、頼ったり・頼られたりする機会を通じて、自分ではわからなかった自分の良さに気付くことができる。
学童の生活の中には、そんな機会がたくさんある。まわりの子どもとの憧れ・憧れられる経験は、やさしさや思いやり、責任感といった内面を育んでいく大切な機会になるんだよ。
複雑に揺れ動く心に寄り添っていくということ
このような自己理解の発達は、一方向にまっすぐに進んでいくわけでななく、ときにわからなくなったり、揺れ動いたりしながら、徐々に作り上げられていくものなんだ。
僕たち大人は、子どもが自信を持てるように、できるようになったことをほめたり認めようとしがちだよね。
遊びにせよ、勉強にせよ、「何かができるようになること」「何かを得ること」などの「結果」に着目してしまうことが多いと思う。
けど、子ども達は、毎日の生活の中で、「困難」や「悩み」や「自信をなくす」ような経験をたくさんしているんだ。
何かができるようになる前には、できない自分と向き合って、葛藤したり悩んだりする過程がありますよね。
そんな子どもたちは、大人からほめられたとしても、そこに自分自身の実感がともなっていなかったら、喜びも達成も生まれずに、大人に対する不信感を感じてしまうようなこともあるかもしれない。
子どもたちにとっては、結果をほめられることよりもむしろ、自分の揺れやわからなさに向き合ってくれる大人の存在が重要なんだ。
自分の葛藤を知り、共感し、一緒に悩んでくれた経験が残っているからこそ、その人からほめられた時に実感をともなって自分を肯定的に理解していくことができるようになるんだね。
子どもたちのできなさによりそって、一緒に悩んだり考えたりしていくことは、多くの労力と時間を必要とするよ。
そんな重要な役割が、僕たち学童保育指導員にはあるんだと思う。
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さいごに・・・
高学年って大変なんだ・・・
そりゃ、つんつんになっちまうこともあるさ。
いかがだったでしょうか。今回は、自己理解の変化に伴って、子どもたちが経験する「揺れ」や「悩み」と、そんな子ども達に寄り添う指導員のかかわりの大切さについてお伝えしました。
児童期の発達過程については、放課後児童クラブ運営指針の第2章に、小学校の6年間を3つの時期に分けて、それぞれの時期の発達的特徴や配慮したい事柄がまとめられています。
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1年生から6年生までの間に大きな成長を遂げる子どもたちを支援するのが私たちの役割です。そのためには、子どもの発達について理解をすることは大切ですよね。
おれ、なんか、みさとちゃんのことすごい健気に感じてきちゃった。
【・・・翌日】
あ、みさとちゃん、おかえり~!!
・・・きもい
く~!
僕の思いは、みさとちゃんには全く届かず(当たり前か)、相変わらずの冷遇。だけど、自己理解のこと勉強したからね。これからもめげずに、みさとちゃんに声をかけていきたいと思います!!
(おしまい)
【参考文献】
『日本の学童ほいく』2018年1月号/全国学童保育連絡協議会 「子どもの自己理解の発達に大人ができること」 小川絢子著(名古屋短期大学)
『テキスト学童保育士・基礎カリキュラムー指導員の専門性を高めるためにー』/一般社団法人 日本学童保育士協会・特定非営利活動法人 学童保育士協会